クロス・コンプライアンス


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EU諸国では、主として地域の環境保全を目的として、環境規則の遵守に対する直接支払いが行なわれています。

 

日本では農水省の「環境保全型農業直接支援対策」がそれに相当する政策ですが、欧米のような規模の大きいものにはなっていません。

 


 

 

クロス・コンプライアンスとは

EU諸国で行われている「農業の単一支払制度」では、農業生産者が補助金を受けるために、生産者自身が自分の農地を、よい農業条件や優れた環境条件に保ち、

 

 

周辺住民や家畜および作物の健康、環境保護、動物福祉に関連する規則を遵守しなければならないといった要件を定めており、「クロス・コンプライアンス」と呼ばれています。

 

 

日本語に訳すと「環境配慮要件」ですが、「農業生産者が直接支払を受給するために一定の要件を満たさなければならない」という仕組みであり、

 

 

環境に配慮しながら農業生産活動を行う農家に対して所得を直接補償する制度」ということになります。

 


 

 

デカップリング政策

「農業生産を調整し価格を維持することで所得を確保する」減反政策とは異なり、「農業生産と切り離して実施される、農家への直接所得補償を※デカップリング政策と呼んでいます。

 

 

米国やEUなどでは、1970年代食糧危機があったときに、積極的な規模拡大や投資、価格政策などによって増産を図りました。

 

 

しかし、そのために80年代には、過剰生産と財政負担がおーきな問題となり、農業保護削減政策として出てきたのがデカップリングの考え方です。

 

 

EUでは現在なお、クロス・コンプライアンスデカップリング政策として位置づけられています。

 

デカップリング政策:価格政策の持つ「所得を維持する効果」と「生産を刺激する効果」の2つの効果を切り離すことを意味する言葉。日本では一般的に農家に対する「直接的所得補償政策」として使われている。

 


 

 

日本でのクロス・コンプライアンス

日本では、生産条件が不利な中山間地や湖沼などで、その地の環境を維持しながら行われる生産活動を守る目的で導入されています。

 

 

さらに日本では、農業に伴う農薬などの影響で生じる環境問題への関心が高まっており、農産物の生産がもたらす環境負担の軽減と環境保全の重視が重要な課題となっています。

 

 

農家の関心も非常に高く、また、実際に環境保全を重視した農産物づくりも広がっています。

 

 

しかし、今日の農業情勢では、農家の負担は大きく、経営に対する圧迫要因にもなってきています。

 

 

そこで農水省では、「農業者が環境保全に向けて最低限度取り組むべき環境基準」を設定し、それをクリアした農業者には各種の支援策を講じていく制度、つまり、農薬・化学肥料の不使用などによる収入減やコスト増の補填を行っています。

 

 

直接支払を受けるときに、何らかの形で環境に良い行為の達成を求めることが、クロス・コンプライアンスになっています。

 


 

 

コラム~農業補助事業等における要件設定~

近年、農業補助事業などでは環境保全のほか、農作業の安全確保など、各種の要件設定が行なわれています。

 

 

具体的な事例として「強い農業・担い手づくり総合支援交付金(産地基幹施設等支援タイプ)の場合では、GAPHACCP、※ハラールのどの取り組みのいずれかの実施を義務化しており、加えて、GAPの取り組みを実施していない場合、

 

 

規範チェックシートの実施を努力義務としています。

 

 

この他、就農や雇用に関する事業では、研修の実施や労災保険への加入を義務化。

 

 

また中山間地域等直接支払交付金、多面的機能支払交付金については、作業前の危険箇所の確認・共有を努力義務化または義務化が設定されています。

 

※ハラール:イスラム法で、行ってよいことや食べることが許される食材や料理を示す。