
トランプ関税はなぜ強行されるのか
トランプ政権が打ち出した関税政策は世界に大きなな波紋を広げています。
米国が関税を導入する主な理由は、自動車を例にすれば明らかです。
外国車に高い関税を課して輸入を減らし経常収支(ほぼ輸出額から輸入額を引いたもの)を改善しようというのが狙いです。
輸入関税で国内産業を保護すると、その保護産業に外国から投資が入ってくるため、かえって外国の経済的支配下に置かれるという考え方がかつてはあったようです。
しかし、今やモノの輸入は制限したいが、雇用を生む外国からの投資は歓迎という考え方が一般的になっています。
安部元首相が、第一次トランプ政権との交渉で、日本の自動車産業が米国内でどれだけ雇用をもたらしているのかを説明したのもこの文脈に沿っている。
鉄鋼生産は長らく、鉄鉱石とコークスを使った高炉方式が主流だった。
しかし最近は、スクラップ鉄を溶かす電炉方式の導入が急速に進んでいる。
航路時代はピッツバーグが主役だったが転炉方式ではスクラップ鉄を運搬するコストが課題となる。
広大な米国や中国に比べて、狭い日本とその技術には、いまだ優位性があると元新日鉄役員が言っていた記事を読みました。
このような背景を踏まえると、 USスチールの日本製鉄による買収は、単なる日米間の産業競争の話に止まらず、中国との技術覇権争いを展開する米国にとっても、むしろ戦略的な好機と見るべきである。
今年5月末頃、トランプ氏がUSスチールを訪れ、演説を行っているニュースを見ました。
日本製鉄の社長と並んで登場したトランプ氏は、日本からの投資に友好的な姿勢を強調していたが、やはり「国防上の理由」から、経験の完全な譲渡には明言を避けていました。
不透明さは残るが注視すべき点をいくつか挙げてみます。
第一に、仮に買収が成立しても、経営権が完全に移るとは限らない。
トランプ氏が示唆するように、解雇権や経営陣の国籍など、何らかの制限が設けられる可能性がある。
法的には、株式の過半数を取得すれば経営権は移るが、実際には日米双方の経営者が協力して経営に当たる形が求められる可能性がある。
第二に、トランプ政権の関税政策は、外国車の輸入を制限し、米国内の自動車産業に従事する労働者を支援するという考えに基づいている。
たとえ世界中に貿易の敵をつくっても、自国の労働者を守るという路線である。
しかし、この考え方は、自由貿易の基本原則__つまり最も効率的かつ安価な供給先から商品やサービスを調達するという考え方__
とは真逆の発想である。
補完税を導入すれば確かに国内産業には労働力が集まるかもしれない。
しかし、その労働力を訓練し、国際水準に引き上げるには時間がかかる。
今までは関税なしで優れた部品を海外から調達できたのに今後は高い関税を払って輸入せねばならない。
実際、トランプ氏はUSスチールでの演説で、鉄鋼とアルミニウムに対する関税を25%から50%に引き上げると宣言している。
つまり、関税は生産コストを引き上げ、最終的にはアメリカ製の自動車が日本車と同等の性能を持つまでに長い時間がかかることになる。
米国のこうした関税政策は、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)やWTO(世界貿易機関)で築かれてきた国際ルールを明確に逸脱している。
自然な貿易の流れを川の流れに例えるなら、米国は率先してそれ堰を設けて流れを妨害しようとしているのである。
その弊害は、輸入品の価格が上がるだけに止まらず、世界中の福祉を害するのである。
もし各国が中国のように対抗関税を打ち出せば、世界貿易体制は深刻な危機に陥ることが予想できる。
日本がここでトランプ政権の強靭姿勢に安易に追求することになれば、中国が反対し続ける一方で、自由貿易体制の崩壊を早める手助けともなりかねないのではないでしょうか。
現在の「古古古米騒動」に見られるように、日本の農業政策も自由貿易の原則から外れており、米国からすれば不公平と映ることもあるかと思われます。
また、防衛費の分担に関しても、トランプ大統領からは日本が負担を逃れるとみられている節があります。
こうした側面では、ある程度の情報も必要かもしれません。
しかし自由な貿易体制そのものを揺るがすような強権的対応に、日本が「イエス」と言ってしまえば、トランプ氏の誤った理解に加担することになります。
それは貿易体制の崩壊を早める一助となってしまいます。
トランプ氏は、独特の魅力や威圧によって支持者や政敵を翻弄することはできても、世界の株式市場や為替、金利といった「市場そのもの」を欺くことはできない。
実際、彼の関税政策が発表されると市場が下落し、その撤回が報じられると回復する。
これは市場が、彼の政策の誤りを見抜いているからだと思います。
だからこそ、今の日本にも、中国やヨーロッパと同じように、トランプ氏の反市場的世界観に屈しない強さが求められるべきというのが私の考えでございます。