中国政府による反外国制裁法とIDARモデル


反外国制裁法について

中国政府は2015年3月24日、中国に制裁を課すことや、内政(関税も含めて)に干渉したとみなした国に対する対抗措置を強化する規定を発表しました。

 

反外国制裁自体は2021年に成立したもので、今回新たな規定を加えたもの(かなり広く厳しいもの)になります。

 

具体的には、企業や個人の現金預金を差し押さえることができるほか、中国での投資活動の制限や禁止、輸出入の禁止・制限などが盛り込まれています。

 

また、中国の相手国が中国への干渉や制裁措置に協力した国や個人も対象になるということが盛り込まれています。

 

例えば、ある製造メーカーが、中国産の素材や材料は使用しない旨をアナウンスした場合、もしそのメーカーが中国に支店や銀行口座等を開設している場合、その資産の差押えや凍結措置があるということです。

 

 

下記に、参考として2021年に公布された、反外国制裁法の条文の一部(※CISTECの仮訳)を記載します。

 


第13期全国人民代表大会常務委員会第29回会議が2021年6月10日に採択・公布

中華人民共和国反外国制裁法※仮訳

第六条

国務院の関係部門は各自の職責と職務分業に基づいて、本法第四条、第五条に規定する個人、組織に対して、実際の状況に基づいて以下の一つあるいは複数の措置を講じることを決定することができる

(一)査証を発行しない、入国禁止、査証取消、あるいは国外追放
(二)我が国国内にある動産、不動産やその他の各種財産の差し押さえ、押収、凍結
(三)我が国国内の組織、個人との関連取引、協力等の活動の禁止あるいは制限
(四)その他の必要な措置


 

この法律の解釈権は外国や個人にはなく、中国にしかありません。

 

例えば、対象となる協力者の範囲や、間接的に関わったという範囲に関しては具体性に欠ける部分があり、事象に応じて解釈されるという懸念もあります。

 

今回の発表は、おそらく外国の関税措置に対する対抗措置であるとも考えられていますが、その他にも、以前少し触れた半導体についても、アメリカはAIが次世代の核となる技術であると呈し、それには最先端の半導体を中国には絶対に渡らせないということで、輸出規制を強化していたことなども背景にあるのではないでしょうか。


 

 

 

半導体で思い出しましたが、ここ最近また中国の勢いが本当にすごいなと思ったのは、「DeepSeek」が発表されたときです。

 

トランプ政権になる前のバイデン政権の時から最先端の半導体には輸出規制が固められていました。

 

にもかかわらず、型落ちの半導体で、しかも「chatGPT4o」の10分の1の予算で完成させています。

 

結果的に内容はどうあれ、この型落ちの半導体で作られた「DeepSeek」、NVIDIA製の半導体が使われていたということです。

 

「chatGPT4o」も同じNVIDIA製の半導体が使われていたのですが、こちらは「H100」という最先端半導体、対して型落ちの方は「H800」の半導体です。

 

さらには、使用枚数も「chatGPT4o」の方は1万枚、「DeepSeek」の方は2000枚、、つまり「chatGPT4o」の5分の1の枚数で完成させているというので驚きです。


中国のIDARモデルとは

米国通商代表部(USTR)は、中国が国家を挙げて進める協力な産業政策について大きな懸念を示し、中国が中国産業を強化するための手立てとして、「IDARモデル」があると分析し、膨大な調査報告書をまとめています。

この「IDARモデル」とは、中国が外国製品の技術を盗み、それをベースに改良施す過程を説明したUSTR独自の造語ですが、そのアプローチ及びコンセプト自体は2006年に中国政府が発表した「5ヵ年計画」にも記載されています。

 

米国半導体協会、米国情報技術産業協議会、カリフォルニア大学バークレー校などの多くの業界団体研究機関が協力したこの調査の報告書による「IDARモデル」とは

 

◻︎第一段階I(Introduce)

外国製品を入手・窃取する摂取する。

 

◻︎第二段階D(Digest)

その技術や製品の構造を官民の協力によって解析する。

 

◻︎第三段階A(Absorb)

豊富な政府資金を補助金や融資などの形で投入し、その技術を使用した製品を再製品化する。

 

◻︎第四段階R(Re-Invent)

解析した技術にさらに改良を加えることによって技術的な国際的優位性を実現する。

 

これらの計画の頭文字をとって「IDARモデル」としています。

米国の主張は、「こうした産業政策を国家ぐるみで行う中国は、米国の通商・安全保障上の大きな脅威である故に、それに対する協力な対抗措置を早々に取らなければならない」ということで、その具体的な結果が、最先端半導体やその製品の禁輸等となって現れています。

中国の技術派遣を許してしまうことが、米国の国力そのものへの脅威となる点を米国は深刻な問題と捉えているのです。