
~通常兵器の懸念に備えるキャッチオール規制とは~
2025年、日本の輸出管理制度が大きく変わろうとしています。
5月28日の改正外為法に加え、令和7年(2015年)10月9日から施行される今回の見直しでは、レーザー加工機、マシニングセンタ、旋盤、研削盤などの工作機械が新たに注目される品目に加えられ、安全保障上の観点から規制が強化されます。
なぜ今、見直しが必要なのか?
近年、民生用の技術や製品が軍事用途へ転用されるリスク(いわゆるデュアルユース)が増しています。
さらに、国際社会では軍民融合政策を進める国の影響もあり、日本としても国際的な枠組みと連携しながら、安全保障を意識した輸出管理が求められています。
キャッチオール規制とは?
キャッチオール規制とは、リストに記載されていない汎用製品でも、軍事転用の恐れがあれば輸出許可が必要になる仕組みです。
今回のポイント:通常兵器向けキャッチオール規制の強化
これまでは主に大量破壊兵器が対象でしたが、今回の見直しで通常兵器に使われる可能性のある以下の品目も対象となります。
対象となる工作機械(一部抜粋:HSコード)
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8456:レーザー加工機、放電加工機など
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8457:マシニングセンタ
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8458:旋盤(ターニングセンタを含む)
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8459:フライス盤、ボール盤など
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8460:研削盤、ラップ盤など
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8461:歯切り盤、切断機など
つまり、高性能な精密加工機械は、全て新たな審査対象となる可能性があるということです。
どう変わる?輸出手続きの流れ
輸出前に以下の2点を輸出者が確認することが求められます:
① 用途要件
→ 機械が通常兵器の製造や開発に使われる可能性があるか?
② 需要者要件
→ 取引相手(需要者)が、兵器の開発・製造・使用に関わっていないか?
【例】パン屋がレーザー加工機を複数台注文してきたら…
→ 明らかに用途と不一致。輸出者が許可申請を検討すべきケースです。
迂回輸出も警戒対象に
たとえ輸出先がグループA国(米国やEU諸国など)であっても、そこを経由してロシアなどの懸念国に迂回輸出されるリスクがある場合には、経産省が通知し、輸出者に許可申請を義務付ける仕組みが導入されます。
手続きの合理化も進む
以下のようなケースでは手続きの簡素化が進みます:
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インドやASEAN向けに移設検知機器付きの工作機械を輸出する場合
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同志国軍による防衛装備の持ち帰り
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優良企業へのインセンティブとして立入検査を重点化
「明らかガイドライン」で見分ける輸出リスク
政府は「明らかに懸念がない」ことを示すためのガイドラインを示しています。
一例:
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設置場所が軍事施設に隣接していないか?
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過剰な秘密保持や過度な安全措置が求められていないか?
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支払方法や梱包が不自然でないか?
こうした視点で、輸出者が自らリスクを判断することが求められます。
これからの輸出は「自己判断+報告義務」の時代へ
今回の規制見直しは、従来のチェックリスト頼りの制度から、輸出者自身の判断力と責任を問う新しいフェーズに入ったことを示しています。
とくに、工作機械を扱う製造・販売企業の皆さんには、下記のような対応が急務です:
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社内の輸出審査体制の強化
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取引相手国と需要者のリスクチェック
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グループA国経由の「迂回」対策
国際情勢の変化に伴い、日本のものづくりが意図せず安全保障リスクに関わることのないよう、制度と実務の両面で慎重な対応が求められています。