
⏱読み終わるまで5分
1.特定類型とは? なぜ重要?
技術を外国に提供する際、相手が特定の属性を持っていると、輸出管理上「特定国の非居住者」とみなされ、経済産業大臣の許可が必要になります。
この「特定の属性を持つ人」が「特定類型」です。
では、どんな人が該当するのでしょうか?
相手が「特定類型に該当するかどうか?」の判断は、非常に実務的で悩ましいものです。
この記事では、通達(令和6年7月施行)に基づく 特定類型の考え方と、典型的な該当・非該当の事例をわかりやすく整理しました。
特定類型の3パターン
① 外国法人や外国政府に従属している人
-
外国政府や外国法人と雇用・委任・請負契約を結んでおり、その指揮命令や善管注意義務(責任)に従っている。
② 外国政府等から多額の報酬を受けている人
-
年間所得の25%以上に相当する報酬を外国政府等から得ている、または得ることを約している。
③ 外国政府等から指示や依頼を受けて本邦で行動している人
2.特定類型の該当性をどう確認する?
以下のような実務上のガイドラインに基づき、相手が該当するか確認することが求められます。
契約書等で確認できる場合
-
役務取引を行う前に、契約書等により特定類型に該当するかを確認。
-
明確に該当していると分かる場合、確認せずに技術を提供すると違反の恐れあり!
自己申告+報告義務
-
取引相手が自社の指揮命令下にある社員の場合は、自己申告+定期的な報告でOK。
-
例えば、「副業等が発覚した場合に報告する」旨を就業規則で定めていれば、通常の注意義務を果たしたとみなされます。
経産省から「特定類型の可能性あり」と指摘を受けた場合
-
そのまま技術を提供してはいけません。再確認が必要です。
特定類型の具体例と判断基準
▼ 事例①:中国IT企業からの出向者が日本法人で勤務している場合
状況:
中国の大手IT企業A社が日本法人B社に技術者を出向。B社の現場で日本人上司の指示を受け業務を行っている。
判断:非該当(特定類型①に該当しない)
→ 日本法人B社の指揮命令下で勤務しており、日本企業が契約上の指揮命令権を持つと合意されていればOK。
確認ポイント:
-
契約書に「B社の指揮命令が優先される」と記載があるか?
-
派遣元の中国企業が業務内容に直接干渉していないか?
▼ 事例②:外国政府系研究機関と契約している大学院生
状況:
日本在住の留学生Xが、某国政府系研究機関から研究奨励金(年間300万円)を受け取りながら、共同研究契約を結んでいる。
判断:該当(特定類型②に該当)
→ 外国政府からの報酬が本人の年間所得の25%を超える場合、「多額の利益」とみなされる。
確認ポイント:
-
金額は給与・報酬・奨学金など合算で評価
-
対象が「外国政府等」に該当するか
▼ 事例③:外国政党の要請でSNS投稿を依頼された日本人インフルエンサー
状況:
外国の政治団体から依頼を受け、日本国内で特定の政治主張に沿ったSNS投稿を行う代わりに報酬を受け取る。
判断:該当(特定類型③に該当)
→ 本邦における行動(=SNS投稿)を外国政府等の「依頼」で行っているため。
確認ポイント:
-
行為が「依頼」または「指示」に基づいているか
-
本人がその事実を認識しているか
では、どこまで確認すればよいのか?
経産省は、「通常果たすべき注意義務を履行しているか」を基準にガイドラインを示しています。
【1】特定類型①または②の該当性の確認
(外国の法人・政府の指揮命令下 or 多額の利益の受領)
●(1)相手が提供者の指揮命令下に「ない」場合
注意義務を果たしているとされる条件:
-
契約書や関係書面に、特定類型①②に該当する情報が記載されておらず、確認不能な場合 ⇒ 追加確認不要
注意義務を果たしていないとされる行為:
-
契約書に特定類型①②に明確に該当する記述があるにもかかわらず、漫然と技術を提供した場合
-
経産省から「該当の可能性あり」と連絡を受けた後に、確認せずに技術を提供した場合
●(2)相手が提供者の指揮命令下に「ある」場合
注意義務を果たしているとされる条件:
-
指揮命令に服す時点で誓約書(別紙1-4)等により、自己申告を取得
-
就業規則等で、利益相反(副業含む)に該当した場合の申告義務を定めている
-
すでに在籍している者にも、該当時の申告を義務づけている
注意義務を果たしていないとされる行為:
-
経産省から特定類型①②に該当する可能性ありと指摘されているにもかかわらず、確認を怠って技術を提供
【2】特定類型③の該当性の確認
(外国政府等からの「指示・依頼」により、日本で行動)
※特定類型③については、相手が提供者の指揮命令下にあるかどうかを問わず、以下のように判断されます。
注意義務を果たしているとされる条件:
-
契約書等に③に該当する記載がなく、特段の疑義がなければ追加確認は不要
注意義務を果たしていないとされる行為:
-
契約書などに③に該当する旨が明記されているのに、そのまま技術を提供した場合
-
経産省から③に該当する可能性ありと連絡があったにも関わらず、確認せずに技術を提供
誓約書で確認する方法
経産省は「自己申告方式による確認」も容認しています。
例:誓約書のチェック項目(要旨)
-
外国政府・外国法人との契約の有無
-
指揮命令の優先関係
-
外国政府等からの収入の割合
-
本邦での外国政府等の指示行動の有無
→ これを役務取引前に取得し、継続的に確認できる体制があれば、義務を果たしたとみなされます。