知的財産権の国際出願登録方法


海外での知的財産権の出願登録はほとんどの場合、日本国内の弁理士(事務所)や特許事務所に、その業務を委託して行うことになります。

 

以下、それぞれの出願登録の方法を説明します。

 


 

 

★特許・実用新案権を国際出願登録する方法

海外で特許権、実用新案権を出願しようとする場合は、各国に直接出願(パリルート)する方法とPCTルートという2つの方法があります。

 

※実用新案制度がない国(アメリカなど)もあり、そのような国では、実用新案の出願はできません。

そのような場合には、特許権、意匠権などで知的財産権を保護することになります。

 

【各国に直接出願(パリルート)】

各国の特許庁に個別に出願する方法です。

はじめての特許出願から、海外で出願する事はあまりなく、通常は国内に最初の出願(基礎出願)をしてから、パリ条約にもとづいて外国出願をします。

その際に基礎出願から1年以内であれば優先権を主張できます。

日本の特許庁への基礎出願の時点で、先願しなものとみなされるわけです。

これは出願国が少ない場合に使われることが多い方法ですが、各国が指定する言語・様式による手続きが必要になるため、出願国が多いと手続きの手間と費用がかさみます。

 

パリ条約とは

工業所有権の保護に関するパリ条約」(Paris Convenetion for the Protection of Industrial Property)のことで、特許・実用新案・意匠・商標・サービスマーク・商号、原産地表示、原産地名称、不正競争の防止といった工業所有権の国際的保護を図ることを目的として、1883年にパリで締結された条約です。

本条約では、日本で最初に出願して、一定期間(特許・実用新案 : 12ヶ月以内、意匠・商標 : 6ヶ月以内)に、パリ条約加盟国に出願すれば、日本で出願した日に外国で出願したとみなされる優先権を主張できます。

 

【PCTルート】

「特許協力条約」(PCT:Patent Cooperation Treaty)を利用した出願方法で、日本語もしくは英語で作成した出願書類(国際出願願書)を日本の特許庁に提出することで、すべてのPCT加盟国に出願したのと同じ効果が得られます。

PCTに基づく国際出願では、日本での基礎出願から12ヶ月以内に国際出願をする必要があります。

ただし、日本での基礎出願をせずに、初めから国際出願をすることも可能です。

そして、基礎出願から30ヶ月以内に権利化をする国を決定し、その国においての国内移行手続きを行います。

その国が指定する言語の翻訳文も提出します。

PCTにもとづく国際出願は、日本語で作成した願書を日本の特許庁に提出すればよいため、パリルートよりも手続きは簡素です

 


 

★意匠権を国際出願登録する方法

海外で意匠権を出願しようとする場合は、パリルートハーグ協定に基づく国際出願の2つの方法があります。

2つの方法のポイントは、以下の通りです。

 

【各国に直接出願(パリルート)】

特許・実用新案権の場合のパリルートと同様に、日本での基礎出願による優先権を行使して、各国の特許庁に個別に出願する方法です。

意匠権の優先権が認められる期限は6ヶ月なので、日本での出願日から6ヶ月以内に、その国が指定する言語で、各国の特許庁に出願する必要があります。

この方法は、特許・実用新案件と同様に、出願国が少ない場合に使われることが多い方法です。

各国が指定する言語・様式による手続きが必要になるため、出願国が多いと手続きの手間と費用がかさみます

 

【ハーグ協定にもとづく国際出願】

「ハーグ協定」を利用した出願方法で、国際登録事務局(WIPO)に出願することで、指定国への出願登録を一元化するシステムです。

出願書類は英語、フランス語、スペイン語のいずれかで作成する必要があります。

出願後に形式的な審査が行われ、問題がなければ、提出したデザインが国際登録され、WIPOのサイトで公開されて、その後、各国の特許庁で実態調査が行われ、6ヶ月または12ヶ月以内に審査の結果が通知されます。(意匠権登録)。

国際登録を5年間の存続期間が設定されており、以後5年ごとに更新することで、国によって15〜25年の間、意匠権を維持することができます。

 

ハーグ協定とは

「ハーグ協定」(Hague Agreement Concerning the International Registration of Industrial Designs)
とは、意匠権の海外出願において、国際事務局に出願することで、指定国への出願・登録を一元化するシステムで、日本を含めて世界62カ国が加盟しており、EUや米国などの主要国も加盟しています。

パリルートでは、各国が指定する言語・様式による手続きが必要であるのに対し、ハーグ協定での出願は、1つの願書でまとめて英語で出願することができます。

 


 

★商標権を国際出願登録する方法

【各国に直接出願(パリルート)】

特許・実用新案権や意匠権の場合のパリルートと同様に、日本での基礎出願にする優先権を行使して、各国の特許庁に個別に出願する方法です。

商標権の優先権が認められる期限は6ヶ月なので、日本での出願日から6ヶ月以内に、その国が指定する言語で、各国の特許庁に出願する必要があります。

この方法も特許・実用新案権や意匠権と同様に、出願国が少ない場合に使われることが多い方法です。

各国が指定する言語・様式による手続きが必要になるため、出願国が多いと手続きの手間と費用がかさみます

 

【マドプロ出願】

マドリッドプロトコル」(通称「マドプロ」)を利用した出願方法で、日本の特許庁への基礎出願にもとづいて海外で登録する方法です。

日本での基礎出願から6ヶ月以内に、国を指定して国際出願をすることができます。

パリルートでは、各国が指定する言語・様式による手続きが必要であるのに対し、マドプロ出願では1つの願書でまとめて英語で出願することができます。

 

マドプロとは

マドリッド協定議定書」(マドリッドプロトコル)のことで、商標の保護に関する国際条約です。

商標の保護を希望する国を指定し、日本の特許庁を経由して、国際事務局(WIPO)へ国際登録出願をすることができます。

2024年5月現在の締結国は115カ国となっています。

(参考:マドリッド協定議定書締約国一覧

非締結国では、この制度が使えないため各国で個別出願をする必要があります。

 

商標の出願登録においては、こちらで解説したように、商標の商品・役務は45区分されており、いずれかの区分を選んで登録します。

登録しようとする国において、同じ区分内に既に同一・類似商標が登録されていないことが必要です。

より多くの区分で商標登録する方が、より幅広い保護とはなりますが、登録する区分が増えればコストもかかるので、どの区分で登録するかはよく検討する必要があります。

 


 

【国境をまたいで有効となる知的財産権は存在しない】

なお、全世界的に見て、同時に知的財産権を付与する制度は存在しておらず、国境をまたいで有効となる国際的な権利は存在していません

PCT、マドプロにおける国際出願においても、各国ごとの国内移行手続きによる登録が別途必要になります。

ハーグ協定による意匠権は、WIPOで出願登録の一元化はできますが、登録は各国ごとに行います。