
EMC規格(Electromagnetic Compatibility Standards)とは、電子機器が電磁環境適合性(EMC: Electromagnetic Compatibility)を満たすための基準を定めた規格のことです。
これには、機器が周囲に悪影響を及ぼさないように電磁妨害(EMI: Electromagnetic Interference)を抑え、逆に外部の電磁波の影響(EMS: Electromagnetic Susceptibility)を受けても正常に動作することが含まれます。
EMC(電磁環境適合性)とは?
EMCには、以下の2つの要素があります。
1.EMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)
⇒これは機器が発する不要な電磁波が、他の機器に影響を与えないように制限することをいいます。
2.EMS(Electromagnetic Susceptibility:電磁感受性)
⇒こちらは外部からの電磁波や電磁的ノイズに対して機器が誤作動せず、適切に動作し続ける能力のことです。
EMC規格の目的
EMC規格は、電子機器が互いに干渉せず、適切に動作することを保証するために制定されており、主に次の目的があります。
- 機器から発生する電磁波を抑制し、他の機器への影響を低減する。
- 外部の電磁波に対して機器が耐性を持ち、正常に動作するようにする。
- 電磁波による健康や安全上の問題を防ぐ。
EMC試験の種類
1.EMI試験(電磁妨害試験)
放射エミッション(RE): 機器から放出される電磁波の測定
例:テレビや無線通信機器が他の電子機器に干渉しないようにします。
伝導エミッション(CE): 機器の電源ラインを通じた電磁妨害の測定
例:AC電源ラインを通じて他の機器に影響を与えないようにします。
2.EMS試験(電磁感受性試験)
静電気放電試験(ESD)
例:冬場にドアノブを触ったときに発生するような静電気に対する耐性
放射イミュニティ試験(RI)
例:スマートフォンの近くで動作する電子機器が誤作動しないことを確認
伝導イミュニティ試験(CI)
例:工場の電源ノイズが制御機器に影響しないようにする
代表的なEMC規格
世界には多くのEMC規格があり、製品が販売される地域によって準拠すべき規格が異なります。
それぞれ代表的なものを下記にあげました。
(1) 国際規格(IEC ・CISPR)
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IEC 61000シリーズ(国際電気標準会議 IEC による規格)
- IEC 61000-4-2: 静電気放電試験(ESD)
- IEC 61000-4-3: 放射イミュニティ試験(RI)
- IEC 61000-4-4: ファストトランジェント/バースト試験(EFT/B)
- IEC 61000-4-5: サージ試験(雷サージ)
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CISPR規格(国際無線障害特別委員会)
- CISPR 11: 産業・科学・医療機器(ISM機器)用のEMI基準
- CISPR 22(旧) → CISPR 32: 情報技術機器(IT機器)のEMI基準
- CISPR 24(旧) → CISPR 35: 情報技術機器のEMS基準
(2) 地域・国別規格
EU(欧州)
- EN 55032:マルチメディア機器のEMI規格(CISPR 32と同等)
- EN 55035:マルチメディア機器のEMS規格(CISPR 35と同等)
- CEマーキング:EU市場で販売される電子機器に必須
アメリカ
- FCC Part 15(Class A/B)
- 民生機器向けのEMI規格(主に放射エミッションと伝導エミッション)
日本
- VCCI(Voluntary Control Council for Interference)
- 日本独自の情報技術機器(IT機器)のEMI基準
- 電波法・電気通信事業法
- 無線通信機器などが適正に動作するための規制
具体的なEMC適合プロセス
電子機器を市場に出すためには、EMC規格に適合し、必要な試験をクリアする必要があります。
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EMC設計段階
- 基板のノイズ対策(フィルタ、シールド)
- PCBレイアウト最適化(グランドプレーン、信号整合性)
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試作品のEMC試験
- 社内試験またはEMC試験機関で測定
- 問題があればフィルタ追加や回路修正
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正式な認証試験
- 認証機関(TÜV、UL、Intertekなど)で試験
- EUならCEマーク、米国ならFCCマーク取得
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市場投入
- 各国の規制に準拠した製品として販売
まとめ
EMC規格は、電子機器が電磁波を適切に制御し、他の機器や環境に影響を与えずに動作するための重要な基準です。
今でこそこのような規格があるおかげで、そこまで影響を及すことは少なくなってきていますが、今でも例えば、航空法により機内での電子機器や電波を発するものの使用を規制していたり、皆さんが安心して過ごせる環境を整えてくれているのだと感じます。
規格と言っても市場ごとに異なる規格があるため、製品設計の初期段階からEMC対策を考慮することが不可欠であることは間違いありません。