
国際取引や輸出管理に関心のある皆さまへ向けて、今回は米国輸出管理規則(EARにおける「End-Use(最終用途)規制」について詳しくご紹介します。
「米国製品を使っていないのに、米国の規制に注意が必要なの?」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、米国の輸出管理規則には「Know規制」とも呼ばれるEnd-Use規制が存在し、特定の用途への関与だけで規制対象となる可能性があります。
End-Use規制とは?
End-Use規制とは、輸出や再輸出される貨物・技術などが「最終的に何に使われるか」に着目し、特定の用途に使用される場合には、米国政府の許可が必要とされる制度です。
これは、たとえ米国製品や米国技術を使っていない場合でも、使用目的が規制対象に該当すれば、米国輸出管理当局(BIS:商務省産業安全保障局)の規制対象となる可能性があるという非常に重要な規制です。
代表的なEnd-Use規制の種類
以下のような特定の最終用途が規制対象となっています:
規制対象用途 | 内容の概要 |
① 核関連用途(Part 744.2) |
核燃料の製造、濃縮、再処理、重水の生産など |
② ミサイル関連用途(744.3) |
ミサイル、ロケット、無人航空機などの開発や製造 |
③ 化学兵器・生物兵器用途(744.4) |
大量破壊兵器に使用される可能性のある用途 |
④ 軍事最終用途(744.21) |
中国、ロシアなど特定国向けの軍事関連用途 |
具体例で理解する End-Use 規制
例1:核関連施設への部品販売
ある日本企業が、中東の民間電力会社から「熱交換器」を受注。
しかし、その設備が実際には核燃料再処理施設で使われる可能性があるとBISが判断した場合、米国製部品を含んでいなくても規制対象になる可能性があります。
→ 回避策:相手先の用途確認(エンドユースチェック)を徹底すること。
例2:ドローンの部品がミサイルに流用される可能性
東南アジアの企業にドローン用の制御基板を輸出したが、後にその企業が軍事関連企業とつながっており、製品がミサイル開発に使用されたと発覚。
仮に米国製の技術や部品が含まれていなくても、輸出者がその用途を「知っていた、または知りうる状況だった」場合、Know規制違反となる可能性があります。
→ 「知らなかった」では済まされないのがEnd-Use規制の厳しさです。
例3:中国企業への機械販売が「軍事用途」に
日本企業が、中国の工作機械メーカーに高精度の研削盤を販売。
形式上は民生用途でも、実際にはその機械が戦闘機部品の製造に使われる可能性があると判断された場合、EAR Part 744.21(中国向けの軍事最終用途規制)の対象になり得ます。
→輸出前に、軍事用途への転用リスクを調査・記録することが重要です 。
End-Use規制に対応するためのポイント
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エンドユーザー調査(End-User Screening)
輸出先の企業が「制裁対象」や「米国のエンティティリスト(EL)」に入っていないか確認しましょう。 -
エンドユース確認(End-Use Statementの取得)
輸出する製品が「何に使われるのか」を書面で明示してもらい、用途を特定しましょう。 -
疑わしいと感じたら、BISに確認(Voluntary Disclosureも含めて)
曖昧な場合は、出荷を止めて専門家やBISへの照会が推奨されます。
End-Use規制を軽視すると重大なリスクに
米国輸出管理規則におけるEnd-Use規制は、「何をどこに売るか」だけでなく、「それが最終的にどう使われるか」を重視する制度です。
製品が民間企業に向けたものであっても、最終用途やエンドユーザー次第では、Knowingly(知っていて)だけでなく、Should have known(知っていたはず)という判断で規制違反となることもあります。
リスクを避けるためには、輸出前の適切な確認と記録の保存、そして疑わしい場合には出荷を見合わせる姿勢が何より重要です。