技術提供に関わる「特定類型」の該当性とは?具体的な事例で理解する技術提供時の注意点


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1.特定類型とは? なぜ重要?

技術を外国に提供する際、相手が特定の属性を持っていると、輸出管理上「特定国の非居住者」とみなされ、経済産業大臣の許可が必要になります。

 

この「特定の属性を持つ人」が「特定類型」です。

 

では、どんな人が該当するのでしょうか?

 

相手が「特定類型に該当するかどうか?」の判断は、非常に実務的で悩ましいものです。

 

この記事では、通達(令和6年7月施行)に基づく 特定類型の考え方と、典型的な該当・非該当の事例をわかりやすく整理しました。


特定類型の3パターン

① 外国法人や外国政府に従属している人

  • 外国政府や外国法人と雇用・委任・請負契約を結んでおり、その指揮命令や善管注意義務(責任)に従っている

 

② 外国政府等から多額の報酬を受けている人

  • 年間所得の25%以上に相当する報酬を外国政府等から得ている、または得ることを約している。

 

③ 外国政府等から指示や依頼を受けて本邦で行動している人


2.特定類型の該当性をどう確認する?

以下のような実務上のガイドラインに基づき、相手が該当するか確認することが求められます。

契約書等で確認できる場合

  • 役務取引を行う前に、契約書等により特定類型に該当するかを確認。

  • 明確に該当していると分かる場合、確認せずに技術を提供すると違反の恐れあり!

自己申告+報告義務

  • 取引相手が自社の指揮命令下にある社員の場合は、自己申告+定期的な報告でOK。

  • 例えば、「副業等が発覚した場合に報告する」旨を就業規則で定めていれば、通常の注意義務を果たしたとみなされます。

 経産省から「特定類型の可能性あり」と指摘を受けた場合

  • そのまま技術を提供してはいけません。再確認が必要です。

 


特定類型の具体例と判断基準

▼ 事例①:中国IT企業からの出向者が日本法人で勤務している場合

状況:
中国の大手IT企業A社が日本法人B社に技術者を出向。B社の現場で日本人上司の指示を受け業務を行っている。

 

判断:非該当特定類型①に該当しない
→ 日本法人B社の指揮命令下で勤務しており、日本企業が契約上の指揮命令権を持つと合意されていればOK。

 

確認ポイント:

  • 契約書に「B社の指揮命令が優先される」と記載があるか?

  • 派遣元の中国企業が業務内容に直接干渉していないか?


 

▼ 事例②:外国政府系研究機関と契約している大学院生

状況:
日本在住の留学生Xが、某国政府系研究機関から研究奨励金(年間300万円)を受け取りながら、共同研究契約を結んでいる。

 

判断:該当特定類型②に該当
→ 外国政府からの報酬が本人の年間所得の25%を超える場合、「多額の利益」とみなされる。

 

確認ポイント:

  • 金額は給与・報酬・奨学金など合算で評価

  • 対象が「外国政府等」に該当するか


 

▼ 事例③:外国政党の要請でSNS投稿を依頼された日本人インフルエンサー

状況:
外国の政治団体から依頼を受け、日本国内で特定の政治主張に沿ったSNS投稿を行う代わりに報酬を受け取る。

 

判断:該当特定類型③に該当
→ 本邦における行動(=SNS投稿)を外国政府等の「依頼」で行っているため。

 

確認ポイント:

  • 行為が「依頼」または「指示」に基づいているか

  • 本人がその事実を認識しているか


では、どこまで確認すればよいのか?

経産省は、「通常果たすべき注意義務を履行しているか」を基準にガイドラインを示しています。

【1】特定類型①または②の該当性の確認

(外国の法人・政府の指揮命令下 or 多額の利益の受領)

●(1)相手が提供者の指揮命令下に「ない」場合

注意義務を果たしているとされる条件:

  • 契約書や関係書面に、特定類型①②に該当する情報が記載されておらず、確認不能な場合 ⇒ 追加確認不要

注意義務を果たしていないとされる行為:

  • 契約書に特定類型①②に明確に該当する記述があるにもかかわらず、漫然と技術を提供した場合

  • 経産省から「該当の可能性あり連絡を受けた後に、確認せずに技術を提供した場合


●(2)相手が提供者の指揮命令下に「ある」場合

注意義務を果たしているとされる条件:

  • 指揮命令に服す時点で誓約書(別紙1-4)等により、自己申告を取得

  • 就業規則等で、利益相反副業含むに該当した場合の申告義務を定めている

  • すでに在籍している者にも、該当時の申告を義務づけている

 

 

注意義務を果たしていないとされる行為:

  • 経産省から特定類型①②に該当する可能性ありと指摘されているにもかかわらず、確認を怠って技術を提供


【2】特定類型③の該当性の確認

(外国政府等からの「指示・依頼」により、日本で行動)

※特定類型③については、相手が提供者の指揮命令下にあるかどうかを問わず、以下のように判断されます。

 

注意義務を果たしているとされる条件:

  • 契約書等にに該当する記載がなく、特段の疑義がなければ追加確認は不要

 

 

注意義務を果たしていないとされる行為:

  • 契約書などに③に該当する旨が明記されているのに、そのまま技術を提供した場合

  • 経産省から③に該当する可能性ありと連絡があったにも関わらず、確認せずに技術を提供

誓約書で確認する方法

経産省は「自己申告方式による確認」も容認しています。

 

例:誓約書のチェック項目(要旨)

  • 外国政府・外国法人との契約の有無

  • 指揮命令の優先関係

  • 外国政府等からの収入の割合

  • 本邦での外国政府等の指示行動の有無

→ これを役務取引前に取得し、継続的に確認できる体制があれば、義務を果たしたとみなされます。